SFを楽しむなら映画よりゲームより小説
小川一水「老ヴォールの惑星」読了。
いやはや、これは素晴らしい。
4篇の中編集で3つ傑作、1つ佳作。これだけ充実した中短編集はそうあるもんじゃない。
まず、「ギャルナフカの迷宮」
何故か巨大迷路に放り出されてサバイバルゲームをやらされるという設定は結構ある。貴志祐介の「クリムゾンの迷宮」とか恩田陸の「上と外」とか映画「Cube」など、それぞれなかなか面白い。この手の中で一番は大場惑の短編「メイズィング・ゲーム」だと思ってたけど、ギャルナフカはそれをも上回る傑作。設定が良く似ていて、迷路の仕組みと社会が発生していく展開まで似ているけど、メイズィングゲームは途中で話を切って逃げているのに対し、ギャルナフカはちゃんと話に決着をつけている。
続いて、「老ヴォールの惑星」
ホットジュピターに生まれた特異な知的生命に訪れた滅亡の危機という設定。SFらしいSFでありながら、海の底の深海魚の寓話のような詩的で美しい短編。ラストの感動はSFにしかない味わいである。
「幸せになる箱庭」は、仮想現実を扱ったもので、まずまずといったところ。
真打は、「漂った男」
全部海の惑星に置かれた男。位置さえ分かれば救出できるが位置を知る方法が無い。通信は出来るし、生命の危険も無い。しかし、助かる見込みがほとんど無い孤独な生に何を目的に生きるのか?ってな話。
漂流小説に「死んだ恋人からの手紙」「冷たい方程式」といった悲痛な通信メロメロSFを組み合わせたような傑作。でも悲劇じゃなく力強い人間賛歌。
とりあえず、読め!